ついに念願の日が来た。私が長年憧れていたX68000を手に入れる日が訪れたのだ。
　ここまでが長かったね。このMCLを読んでもらえれば分かるとおり、私がPCを欲しがったのが83〜84年頃。その後、MZ-2000を手に入れたり、MSX2を手に入れたりはしてたけど、でもいつも「本当のPC」を手に入れたような気はしていなかった。
　で、初めてそのPCを手に入れたという感じがしたのが、この90年の末のX68000の時である。正確な日付は、1990年の12月20日である。私にとってはちょっとした記念日である。

　私が選んだのは、予算面の問題もあって、その時一番安かったX68000 PROIIだった。それにモニタ(チューナーなし)と、1Mバイトの拡張メモリも買っておいた。当時はすでに2Mバイトが最低基準になっていて、PRO標準の1Mじゃ何もできないという事は前もって知っていたからだ。
　その頃ちょうど、私の母親がシャープのサービスをするところに勤めていたので、社販という事で多少安く買えた。会社から直接買ったので、その母親の同僚が車でうちまで運んでくれた。更にその人の私物だったらしいのだが、電波新聞社の「ドラゴンスピリット」と「源平討魔伝」を貸してくれた。

　もうね、それが届く日はかなりワクワクでしたよ。早くこねーかなー、とか思って。で、机の上も広く開けて、ブツが到着すると待ち構えてたように弟と飛び出していって、私の部屋まで運んできた。
　それでさ、まあひとしきり感動を味わうのもいいけど、その前にやる事だけやっちゃおうと思い、まずはいきなりバラして拡張メモリボードを装着した。ほら、一度セッティングしちゃうと、後からつけるの面倒じゃん。

　で、いよいよ起動。当時は、ビジュアルシェル(VS.X)ですよ。一応、この時期はSX-Windowが搭載されはじめ、このPROIIにも添付はされていたんだけど、デフォルトでは1Mしかメモリの無いPROIIでの動作は難しいため、ビジュアルシェルの方が基本になっていたようだ。
　ビジュアルシェルというのはウィンドウシステムの出来損ないみたいなもので、全然マルチタスクではない、いわゆるファイラである。マウスを使ってオペレート出来るというだけの話だ。ま、「ビジュアルシェル」という名前そのまんまなんだけどね。
　これはちょっと慣れた人だと使わなくなる代物なんだけど、当時の私は素人もいいとこだったし、それに最初にX68000に触れた時にいじったのがビジュアルシェルという事もあって、しばらくこれを使っていた。

　それからちょっといじったのち、すぐにドラスピや源平で遊び始めた。
　ほら、私自身はX-BASICとかで楽しめる人だけど、そばに兄弟がいるわけじゃない。折角パソコンがうちに来たというのに、開発ばかりなのもなんだと思い、手っ取り早くX68000の高性能を見せるにはゲームしかないってんでやり始めた。
　まあこれらはゲームとして元々面白いものだったから、当然ながら楽しめた(とは言え、ジョイスティックが無いととても遊べない代物だったので、次の日の学校の帰りだかにすぐさま買ってきたけど)。

　なんというかね、その日は満ち足りた気分でしたよ。PCが手元にあるっていいなあ、と本気で思った。もちろん、上を見たらキリが無いけど、今とにかく使える現役のPCがある、それだけで私のここまでの何年間かの苦労が報われる気がしないでもなかった。

　ただちょっと暗い話をすれば、もうこの頃からX68kの人気というのもかげりが見え始めていたように思う。初代の発売が87年初頭だから、もう4年近くがこの時点で経過している。2年もすれば「一昔前」となるこの世界で、4年間ほとんど本体の機能強化をしなかったX68kは、時代から置いていかれ始めていた。
　発売からアーキテクチャを変えないというスタンスは、ある意味賞賛できる。ソフトメーカーや、あるいは自分でツールを作って配布するような人から見ても、機能の違う複数の機種があるというのはやりにくいものだ。また買う側からしても、買ったそばから次々と新しい機種が出るのでは、すぐに自分のマシンが古くなってしまうし、いちいち買い換えるのも金がかかる。手に入れたマシンをいつまでも使い続けられるというのは、良い事だと思う。
　しかし、これらは買った人、つまりX68kという世界の中にいる人たちの論理である。これから買う人にとっては、X68kというのは「何年も前のアーキテクチャのまま売っているPC」という話になる。すでにこの頃はFM-TOWNSなどの機種も出ていたし、PC-9801なども処理速度を大幅に上げてきていた時期であった。X68kは、私が買った時点では(よそのPCに比べ)様々な欠点が露呈していた。ちょっと時代遅れという感じは否めない。

　それでも私は、X68kを手に入れて満足だったし、今でも良かったと思っている。