MSXの雑誌と言えば、アスキーの「MSX MAGAZINE」がずっと定番だった。他にも有象無象が創刊したり消えたりしたような気がするが、そういう新興勢力の中でも勢いがあり、ある程度の地位を築いたのがこの「MSX-FAN」だった。
　アスキーのMSX MAGAZINE(通称Mマガ)の方は、さすがにMSXのオフィシャルという雰囲気で、正統派の印象があったが、MSX-FANはそれよりもう少しはじけた感じの誌面作りで、方向性の違いがあった。とは言うものの、例えば姉妹誌の「テクノポリス」のような、漫画・アニメオタクっぽいノリは少なく、小学生あたりも対象にしたような作りで、好感は持てた。

　MSX-FANの一番の特徴は、投稿プログラムコーナーの充実だろう。
　投稿プログラム自体は、MSX MAGAZINEでもベーマガでも扱っていた。しかしそれがせいぜい月に2〜3本だったのに対し、MSX-FANでは毎月10本以上のプログラムが掲載されていた。
　しかも、「1画面プログラム」というジャンルを設けていたのは一つの功績である。MSX実機で1画面内におさまる範囲でゲーム(あるいはその他のアプリ)を作れという制約だったのだが、これはかなり人気があったと思われる。何しろ1画面だから行数は少ない(＝入力が容易)し、そういう制約があると余計に燃えるプログラマという人種がいるので、「良くこれをこの行数で作ったなあ」と思える面白いゲームなども投稿されていた。
　もちろん無理に1画面におさめるために技巧的な書き方をしていたりもして、入力時の視認性は異常に悪かったのだけれど、それでもベーマガのリストなどよりは短い時間で入力できた。
　やがて、「BASICリストのチェックサム出力」という画期的な手法が開発され、入力ミスが事前に確認できるようになった。これは入力したリストに対してチェックサムを吐き出させるプログラムで、これを使って出力したデータと、MSX-FAN本誌に載っているデータを見比べれば、どこに入力ミスがあるかわかるという仕掛けだ。長いプログラムを打つ時はかなり重宝する。
　この仕組みのおかげで、だいぶ入力が楽になったのではないかと思われる。

　こうして投稿プログラムコーナーが大変に盛り上がり、「みんな良く考えるよなあ」というような一発アイデア勝負のゲームが結構出てきた。
　また、コード量を少なく、そして効果を最大にするための数々のテクニックが開発され、真似され、改良され、一つの文化を形成しつつあった。

　一番感心したのは、VPOKEを使ってキャラクタ定義を書き換えてしまう手法。これはMSX-FANで独自に開発されたというわけではなく、商用のゲームなどでは基本的に使われていたし、ベーマガでも時々は使われていたが、MSX-FANではすぐに基本テクニックになった。
　キャラクタ定義とは、英数字やカナなど、MSXが定義しているフォントデータの事で、これをを書き換えてしまう事により、グラフィックの代わりにするのだ。
　MSX1では、スプライトは1枚に1色しか割り当てられないが、文字データはもう少し柔軟で、8x8の領域のうち、横1ラインに2色までという制限なのだ。制限が横ライン内の話なので、縦8つ分のラインそれぞれに別々の色を割り当てて良い。従って、縦グラデのようなものは簡単に作れる。
　そこで、ゲーム本体に使わないカタカナなどのフォントデータを書き換え、背景などに使えるようなものにしてしまうのだ。そうすると、MSXらしからぬカラフルな画面作りができる。
　実際には、細かい定義は1画面プログラムではあまり使えなかったが(データがかさばるので)、その応用技はさまざまに使われた。例えば、普段使うアルファベットや数字などのキャラクタ定義を書き換え、太文字にしてしまうとか(単に1ビットシフトしたものと重ねるだけだ)、あるいは斜体にしたり、色を割り当てたり、グラデ文字にしたり…。単調で味気ないMSXの素フォントを、色々工夫して楽しげな画面作りをしていた。
　1画面より大きいプログラムでは、きちんと背景にこのキャラクタ定義技を使っていた。中には、「これがMSXか」と驚くほどきれいな画面を作っていたゲームなどもあった。

　ベーマガの、質朴・教育的な雰囲気の誌面作りもいいが、同じ投稿系としてこのMSX-FANの派手な誌面作りも悪くはない。ちょっと派手すぎるきらいもあるけど、いかにもノリや勢いで作られたようなゲームが毎月ポンポン掲載されるのはとても良かった。
　また、MSXというハード自体が、こういうお手軽ゲームを実現するのに向いたハードというのもある。スプライトや音楽を使えるし、全機種が完全互換のBASICモニタを備えているというのも良かった。機種の違いに悩まされる事がないのだ。
　とにかく、このMSX-FANには色々楽しませてもらった。いまだに、「驚きモアイ」や「すわいん」などの名前は我々兄弟の記憶に強く刻み付けられている。MSX時代のいい思い出だ。