どちらかと言うとゲーム寄りの話なのだが、私のコンピュータライフには欠かせないので、このMCLで取り上げる事にする。
　Beepと言っても、例の圧電ブザーが鳴らすビープ音の事ではない。そういう名前の雑誌が、昔あったのだ。最初の号が1985年1月号で、以後1989年6月号まで月刊で刊行されていた。
　Beepは、日本ソフトバンクが発売していたゲーム雑誌である。特に、どのゲーム機の、という限定はなかった。当時はファミリーコンピュータマガジン(ファミマガ)やファミコン通信(ファミ通)といった専門誌が多かった。
　日本ソフトバンクは、当初PC雑誌を出版した時、当時のPC雑誌界が総合誌ばかり(マイコンやアスキーなど)であったところに目をつけ、「Oh!PC」や「Oh!MZ」など、機種(というよりメーカー)限定の雑誌を投入し、それが成功した。ところがゲームではその逆に、特定の機種を専門にしない総合ゲーム誌というジャンルを作った。
　Beepが扱う内容は、ファミコンやセガシリーズなどの家庭用ゲーム、それからアーケードゲーム、PC向けゲームなど多岐に渡った。ボードゲームの特集も良く組んでいた。個別連載も独自で、有名な「RPG幻想事典」という、ファンタジーとRPGにスポットを当てた連載もあったし、SF小説を紹介するコーナー、MACやAMIGAについて語るコーナー、その他ひたすらオタクで内輪な連載など、80年代の「その筋」の文化の多くを集めたような雑誌だった。にも関わらず、ディープなアニメネタ、漫画ネタ等はそれほど多くはなく(80年代はこの手の雑誌にはアニメネタが欠かせなかったのだ)、私にとっては読みやすかった。
　ノリとしては、今の「popeye」や「Tarzan」などの、いわゆるマガジンハウス系のノリを、ゲーム雑誌に持ち込んだというところだろうか。「それが僕らBeeperの合言葉」のような文言や、「でも、このゲームは違うんだ」のような友達口調の記事など、意図的に他のゲーム雑誌とは変えていこうという姿勢が見受けられる。

　この雑誌には、かなり大きな影響を受けた。Beepは様々な機種を総合的に扱う雑誌だったので、各機種ごとに異なる「ゲームの文化」というものを幅広く知る事が出来た。海外のゲームも良く紹介されていたので、それも読んでいて楽しかった。

　ゲームの記事だけでなく、プログラムのリストなども載っていたのでいくつかは打ち込んだし、その他各種連載も楽しませてもらった。当時のゲーム雑誌の多くが、新作紹介・ゲーム攻略・裏技公開などの「実用性」を重視していたのに対し、あまり実用的でなかったのが私にとって良かったのかも知れない。

　また、私がこの雑誌を買い始めたそもそもの理由は、「RPG幻想事典」という連載であった。元々RPG自体に対する興味に先立ち、小説などでのファンタジー世界に対する興味があったので、このRPG幻想事典のようにファンタジーおよびRPGに関する色んな考察・情報を紹介してくれる連載はとても楽しく読めた。
　このようにBeepは、私の中のゲームに対する考えを広げてくれて、また多分に興味をかきたててくれるものであった。繰り返し書くが、やはり特定のゲーム機やジャンルにこだわらない、総合誌であったというのが大きい。

　私にそういう強い影響を与えた雑誌であったが、真に面白かったのは創刊からだいたい2年くらいまでのように思う。それ以後も頑張って他誌とは異なる誌面を作ろうという意気込みは感じたが、実際には次第に魅力を失っていった。
　なんでだろうと色々考えてみると、やはりコンシューマゲームの量が増えてきて、紹介等も駆け足になってきてしまっていたし、その分PCやアーケード等のゲームに割くスペースがなくなり、初期のBeepが持っていた面白さがなくなったかなという気がする。
　特集の組み方も、恐らく以前組んだ特集とかぶらないようにするためか、段々マニアックな方向に進んでいってたし(これはどんな雑誌でもあるね)、多分編集者が色々変わったんだと思うけど、最後の方はあまり面白いとは思えなかった。

　その後、そういう雑誌自体の魅力の低下のせいか、売り上げは伸び悩んだのだろう。89年に、Beepは廃刊してしまった。そして、新たに「BEEP!MEGADRIVE」という雑誌を、メガドライブの発売を機に創刊する事になった。実質的には、方向転換と言っていいだろう。
　こうして、約5年間でBeepの歴史は幕を閉じた。

　なんだかんだ文句を言いながらも、Beepは大好きな雑誌だったし、廃刊後は発売日になるたびに「ああ、もうBeepは無いんだな」と悲しい気持ちになった。
　ちょうどコンピュータゲームが爆発的に増え始めた時期に誕生し、消えていったBeep。私は大好きだった。