メーカー	任天堂	発売日	1986-02-21
機種	ファミコン	ジャンル	ARPG
評価	★★★☆☆

任天堂の書き換え可能ハード「ディスクシステム」の第1弾。PCを中心に広がりを見せたRPGブームへの、任天堂なりの解答と言える作品。

　● 任天堂の回答

　さて、このコンテンツもついに1986年のゲームの紹介に突入する。トップバッターは、任天堂の「ゼルダの伝説」である。

　このゲームは、任天堂がこの年に発売したディスクシステムの第1弾のゲームである。ディスクシステムというのは、ファミコンの周辺機器の一つで、要するに磁気ディスクを読むための機械である(当たり前だが)。
　当時はシリコンチップの値段が日増しに高くなっており、そのためにファミコンソフトも値上げさぜるを得なかった。工業製品というのは一般的に、売れれば売れるほど大量生産が可能になり、その分「量産効果」という原理が働き、価格が下がる。ところが、希少な資源を利用したり、生産工程の複雑さから大量に作れないものに関しては、逆の原理が働いて価格が上がってしまう。ファミコンのROMのようなものはまさにこれの典型で、ファミコンがバカ売れすると逆にコストが上がってしまった(そして20年近くたった今も、シリコンチップのコストの高さという問題は基本的には変わっていない)。
　そこで任天堂が目をつけたのは、より安く、より大容量な磁気ディスクメディアである。当時の主流としてはROMは32Kバイトくらいであったが、ディスクシステムのメディアは96Kバイトほどの記憶容量があった。
　また、任天堂としては、磁気ディスクメディアの「書き換え可能」という部分に大きな可能性を感じていたらしい。その可能性の一つの試みとして、店頭でのゲーム書き換えサービスというのを行っていた。これは500円を払う事により、ディスクの中身を別のゲームのものに書き換えてもらうというサービスである。これはなかなか画期的で、他にはなかった形態のサービスであった。

　そのディスクシステム専用ゲーム第1弾として発売されたのが、ゼルダの伝説である。ちなみに、その他の同発ゲームは「ベースボール」や「テニス」のような、過去の作品をディスク化したものだ。
　私はこのゼルダの伝説は、かつてのスーパーマリオと同じように、秋葉原で初めてその存在を知った。いわゆる店頭デモって奴だ。
　で、私は最初はこのゼルダについて、多少の偏見はあった。つまり、私はRPGと言えばウィザードリィやウルティマを指すジャンルだと思っており、ゼルダみたいなのは子供だましだと思っていた部分が無くもなかった。
　しかし店頭デモで実際やった結果、RPGとかそういうのじゃなくて、純粋にゲームとして面白いな、と思ったのもまた事実である。
　まず、このゲームは音楽が良かった。実は、ディスクシステムには音源が搭載されていて、その当時は高価だったFM音源である。ただし、1音のみというちょっとせこい音源だ。しかし、それをファミコンが元々出せる3音と組み合わせて出せるので、そこまで「3音で音楽を作る」という事に工夫を重ねてきたメーカーは、ディスクシステムになってより一層高い表現力の音楽を鳴らす事ができた。たかが4音なんだけども。なので、私の印象ではディスクシステムのゲームには音楽の良いゲームが多かったような気がする(賛成意見求む)。ゼルダも、当然その一つだ。
　そして、ゲームバランスが絶妙だ。これはほんとに凄い。
　何度も書いている通り、この86年というのはRPGブームの真っ只中という時期である。しかしそのRPGも、無条件で「いいもの」とされていた訳ではなく、当時からいくつかの問題は指摘されていた。その一つが「経験値稼ぎ」である。経験値稼ぎというのは、楽しい部分もあるが、娯楽性を損ねる部分もあり、賛否両論であった。
　ゼルダは、一見RPGのような体裁を取りつつ、経験値というものを取り入れていない。経験値が無いと、ゲームというのは様子が変わる。普通のRPGというのは、戦って戦って戦いまくった方がいいものだが、ゼルダの場合は結局敵をたくさん倒しても意味がないので、必要のないところでは戦わない方がいい。普通のRPGみたく、目につく敵は全部倒せというゲームになっていなくて、どちらかと言うとアクションゲームに近かった。
　しかしそれだと逃げまくりゲーになってしまうので、場面によってはそこの敵を全滅させないと鍵が出現しないとか、戦闘しなければいけない場面もいくつかあり、そこの釣り合いは上手く取れていた。
　しかし、ただ経験値が無いというだけでは、そのへんのアクションゲームと変わりがない。そこにRPGの風味として、成長の要素が取り入れられている。主人公の体力というのは、普通のRPGと同じく最大容量が増えていく仕組みになっているし、武器や防具なども拾ったり買ったりして強くできる。当然ゲーム中のステータスはセーブ可能なので、主人公を強くしていく楽しみもあった。
　その他、会話によりボスの弱点を知ったり、隠しアイテムのありかを知ったりなどという楽しみもあった。
　ま、このへん、経験値という要素をなくし、その他RPGならではのウザったいと思われる要素をほとんど省略しておきながら、うまく雰囲気を残す事に成功していた。
　その他細かいところだと、「体力が満タンだと、剣からビームが飛ぶ」というアイデアも、地味に良かった。無傷である事とそうでない事に明確に差があり、できるだけ怪我をしたくない、したらすぐ治したいという、わりと現実味のある緊張感あふれたゲーム性になっていた(普通の体力ありゲームだと、「多少ダメージ受けてもいいや」というダラけた雰囲気になる可能性がある)。

　ただ、それもこれもある程度年月が経ち、落ち着いて評価するとそうであるというだけで、私の中ではやはり「RPGとしては、経験値等がある方が面白い」という考えがあり、ゼルダというゲームを「子供向けRPG」みたいな見方をしていた部分がある。もちろん、つまらないという意味ではなく、ゲームとしては面白いと思っていたが。
　今落ち着いてプレイしてみると、改めて良く出来たゲームだな、と思う。そりゃ敵やアイテムの数も少ないし、理不尽な謎もあるし、言ってみれば古いゲームではあるんだけど、任天堂…というか宮本茂のゲームに対する考え方(特に、その当時のRPGブームに対する考え方)が良く現れていて、興味深い。
　ま、実際の所、この初代「ゼルダの伝説」というのは、続編が名作ぞろいだし、人気も上々だったのだが、個人的には「地味な作品」という印象がある。地味だけど、良くできた良作、という雰囲気だ。後にやり直してみて、改めてそう思った。

　ちなみに、後にROM版も発売された。内容は全く変わらないのだが、例のディスクシステムならではの音源が無いので、音楽が微妙に違うと聞く。こだわりのある人はディスクシステム版でどうぞ。

P.S.　このゲームのメッセージは基本的にカタカナなのだが、その中に「デグドガニハ　キライナオトガアル」というのがあった。私はそのボスは「デグドガ」だと思うのだが、当時「デグドガニ」という蟹のような敵だと主張する友達がいて、ちょっとした議論になったりした。